社会・行政との関わり
外食産業の動きは、社会の動きと密接に関連しています。JFは、業界の発展を図るだけでなく、
日本の食文化を守り、発展させていくために時宜を捉えたさまざまな活動を展開しています。
JFでは飲酒運転による事故を根絶するため、外食業界を挙げて積極的な取り組みを行っています。
外食産業の動向に大きな影響を及ぼし得る行政の動きとして、消費税引き上げの問題があります。民主党への政権交代により、今後4年間は引き上げが見送られる見込みとなりましたが、いずれ引き上げが実施されるのは不可避と見られます。
我々の業界として見過ごせないのは、食料品などの生活必需品に軽減税率が適用された場合、あるいは、生活必需品の中で食料品が非課税になった場合、外食と食料品との間に線引きが設けられ、外食産業に著しい不利益が生じうるということです。
JFは、公平な税制への提言に結びつけるため、税制研究の専門家を招いての勉強会や意見交換などを行い、業界全体の意識を高めるべく啓発活動を行っています。
- 勉強会の様子
公共施設における禁煙、分煙の広がりを背景に、外食店舗に対する法規制の動きも生まれています。
たとえば2008年4月、神奈川県は「公共的施設における禁煙条例(仮称)」の制定に向けて基本的考え方を発表。
これは外食店舗も禁煙の対象としており、業界に対する影響は極めて大きいものです。健康増進のための禁煙、分煙の促進に異論を挟むものではありませんが、外食店舗に対する一律の規制は業界側だけでなく、利用者の利益をも損なう可能性があります。
当協会は上記素案に対する以下のような意見書を提出、条例の問題点を指摘し、店舗側の主体的な努力によることが望ましいと提言を行いました。
2008年12月発表の神奈川県公共施設における受動喫煙防止条例(仮称)素案のポイント
- 飲食店(レストラン、ファミリーレストラン、ファーストフード店、寿司屋、喫茶店、居酒屋、その他これらに
類する施設)は、禁煙または分煙としなければならない。 - 店舗面積が100㎡以下の小規模飲食店は、受動喫煙防止対策を進める努力義務を有する。
- 分煙を選択した場合、非喫煙区域の面積は、喫煙区域の面積と比べておおむね同等以上とすることを努力義務とする。
- 喫煙所または喫煙区域を設けた場合、当該施設の従業員を除き、未成年者を立ち入らせてはならない。
- 受動喫煙防止に関する取組実施状況についての報告、資料の提出、又は立ち入り調査を拒んだ事業者には5万円以下の罰金、非喫煙地区において喫煙した者には2万円以下の罰金を科す。
上記素案に対する当協会の意見(概要)
【基本的考え方】
- 外食産業は国民の健全な食生活に貢献するとともに、飲食サービスの提供を通じて国民に「快適な空間」
と「くつろいだ時間」を提供する役割がある。 - この役割は、利用者が好みに応じて選択できる多様な飲食環境を整備することによって実現されるものである。
- 従って、施設における禁煙、喫煙についても、「喫煙」「分煙」「禁煙」などの空間を利用者が「自由に選択」
できるようにすべきである。 - 受動喫煙防止に関する取組実施状況についての報告、資料の提出、又は立ち入り調査を拒んだ事業者には5万円以下の罰金、非喫煙地区において喫煙した者には2万円以下の罰金を科す。
【具体的事項】
- 飲食店における喫煙について
飲食店における喫煙については、基本的に施設管理者の判断と顧客の選択に委ねるべきで、一律に禁煙、分煙を義務づけることは適切でない。
また、飲食店は時間帯により来客層が異なる場合もあり、空間的に喫煙、禁煙を仕切るだけでなく、時間的な措置も認めるべきである。 - 分煙に関する事項について
素案にある分煙効果判定基準は、受動喫煙防止措置をとる際の「参考」とされており、罰則を伴う条例上の規制基準とするのは適切ではない。 - 施行、経過措置について
空間の全部または一部を喫煙区域とした場合、未成年者はその店に立ち入れなくなり、親子同伴の顧客などに不利益が生じる。 - 受動喫煙防止措置促進のための支援について
2003年の健康増進法に定められた、「受動喫煙防止対策への努力義務」について、外食産業では現在分煙等へ向けて努力中である。県当局に対しては、こうした努力への支援を求めたい。
現代の食のシーンを象徴するキーワードの一つとして「食育」があります。これは家庭や学校だけで取り組めばいい というものではなく、今や食の環境の多くを占める外食産業においても、積極的に取り組むべき課題であると、私たちは考えます。当協会ではセミナーや事例発表などを通して、現在日本の食育のあり方を会員企業とともに考える 場を設けています。
食育とは何か その必要性
東京農業大学客員教授 中村靖彦 氏
食育の必要性は2つあると思います。
1つは「食べる側と食の供給者(農業従事者や食品企業など)の距離を縮める」こと。
現代の食生活は、食品の生産、製造現場の事情が消費者へ伝わる仕組みが欠けており、これが食品偽装等の問題の温床の一つになりました。また食べる側も、食品に関する情報が過度に制限されている結果、食品表示や生産地のイメージに過度に敏感になり、問題のない食品の廃棄を進めるなどのムダも生じています。
消費者に生産側の事情をきちんと伝えることで、こうしたもったいない事態を防がなければなりません。もう1つの必要性は「命の大切さを教える」こと。たとえば農業体験を通してさまざまな小さな命とふれあうことが、有効な方法と考えられます。こうした実り多い活動によって、日本を思いやりある社会に変えていければ、と思います。
成長戦略としての食育活動
日本ケンタッキーフライドチキン株式会社 元専務取締役 佐藤 昴 氏
外食産業が「食育」に取り組む際のコアは4つ考えられます。1つ目は「地産地消」「旬産旬消」「医食同源」などの言葉で語られる、日本の伝統を踏まえた食育。非常に良い考え方ですが、現代の外食企業がすべてこれに基づいて経営するのは無理があります。
2番目は、マーケティングや広報活動のテーマとしての食育。これはともすれば、手段が目的化する本末転倒に陥るおそれもあります。
3番目は、CSR(企業の社会的責任)の一環としての食育。正しい考え方ですが、株主の利益も考慮する中で、永続性、経済性、合理性等を常に見極める必要があります。
4番目は顧客サービスとしての食育。カロリー表示や、子供を厨房に招待してフードサービスの実態を見せるなど、「食」で得た営利を顧客に還元しようというものです。この中から、各企業が自社に合った取り組みを行うことになるでしょう。
現在、さまざまな食の問題が発生し、外食産業に対するマイナスイメージが高まってきました。そこに負い目を感じ、身の丈以上のイメージづくりに走る企業もあります。しかし、最も重要な食育の機会は、実は極めて平凡なサービスの遂行の中にあります。つまり食品の提供だけでなく、食を楽しむ体験を提供する、ということです。その基本にあるのは、日々の営業活動の積み重ねですから、すぐに結果を出そうとするべきものではありません。食育の正しい概念を経営理念に組み込んだ上で、営業活動に確実に反映させていくのが、永続性のある食育への取り組み方だと思います。
【事例1】ロイヤルホールディングス株式会社
- ベジフルキッズクラブ(シズラー)
夏休みに、子供たちとその親に野菜や果物のおいしさや魅力を体験してもらう活動。 - 夏休み食育体験学習(ロイヤルホスト)
親子を対象に店舗で「バター&パンケーキづくり」「マヨネーズ&サンドイッチづくり」「野菜教室」などを開催。
○子どもの食育
- ベジフルキッズクラブで野菜の説明を聞く子供たち
- 食事バランスガイドの普及
高齢者の健康維持のための食事の仕方や栄養知識を紹介。 - 「孤食」から「共食」への提案
1人で食事をとる高齢者に、みんなで食べる楽しさを味わってもらう取り組み。
◯高齢者の食育(ロイヤルホスト)
- かむかむ30(with東京農業大学)
30種類の食材を30回かんで食べることの提唱。 - クッキングサミット(with東京農業大学)
若い人の発想をメニューに活かす試み。 - げんきもりもりプレート(withベネッセコーポレーション)
かむ力に着目したメニュー。カルシウムや鉄分に配慮したメニューへの発展も。
◯メニュー展開
【事例2】広越株式会社
- 地元広島の和牛を使ったコース料理の提供(八雲)
- 広島に加え、宮崎、伊万里、鹿児島などの牛の食べ比べメニュー(味味亭)
- 近隣県の食材の採用
◯地産地消
- ネットを活用した当日仕入れ情報の提供
市場で仕入れた商品を購買担当者に携帯カメラで撮影、送付させ、当日中にホームページへアップ。 - 携帯メール会員制度
会員のお客様に毎日食材情報や当日の特典を配信。
◯情報の提供
- 中学校で食文化の体験学習
生徒を老舗和食店に招き、調理やサービス実習、および料理長による講義。
◯学校とのコラボレーション
- 3つの高齢者施設に通年、3食提供
調理技術のノウハウを活かし、かむ力を増進するメニューや季節料理の提供など。 - 懐石料理の賞味会
- ヘルパーさん対象の料理研究会の開催
◯高齢者施設の給食
外食産業について学びたいという学生のニーズに対応するため、外食産業に対する正しい理解、さらに外食産業の将来を担う人材育成のため、さまざまな大学で寄附講座を行っています。
[2009年度講座開設大学]
- 西武文理大学
- 酪農学園大学
- 福岡大学
- 文教大学
- 愛知学泉大学